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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)253号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人東鉄雄の上告理由について。

論旨は本件二棟の建物は独立した建物であり、その敷地番も異なるのであるから、一棟の建物につき民法六一二条の解除原因が発生した場合には、解除原因の存在しない他の建物についてまで解除権の行使を認めるべきではないのに、本件二棟の建物全部に対する解除を認めた原判決は、民法六一二条の解釈を誤つたものであると主張する。

しかし、一個の賃貸借契約によつて二棟の建物を賃貸した場合には、その賃貸借により賃貸人、賃借人間に生ずる信頼関係は、単一不可分であるこというまでもないから、賃借人が一棟の建物を賃貸人の承諾を得ないで転貸する等民法六一二条一項に違反した場合には、その賃貸借関係全体の信任は裏切られたものとみるべきである。従つて、賃貸人は契約の全部を解除して賃借人との間の賃貸借関係を終了させその関係を絶つことができるものと解すべきである。されば原判決が、賃貸借関係は賃貸人と賃借人との相互の信頼関係に基いて成立するものであるから、賃借人が一個の賃貸借契約で各独立の二棟の建物を賃借し、そのうち一棟についてのみ無断転貸をした場合でも、他に特段の事情のないかぎり、賃貸人に対して著しい背信行為があるものとし、賃貸人は民法六一二条によつて右賃貸借契約全部の解除権を取得するものと解すべきであると判示したことは正当であつて、原判決には所論の違法はない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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